好きよりも、キスをして
「昔……何かあった?」
「……小学校の頃だ。病気をして以来、耳が聞こえなくなって。友達は多い方だった。
でも、今までの俺から声を失くした俺を、誰も必要としなかった。
今まで通りに笑って、悲しんで、怒って。今まで通りの俺、ただ声が出ないだけ――そう思ってたのは、俺だけだった。
すると次第にいじめられるようになった。その時期の俺は、やっぱり悩むことが多かったし……辛気臭かったんだろうな。邪魔になったんだろ。
何も喋れない静かで不気味な俺を見て、友達は敵へと変わった。すぐだった。時間は要さなかった」
「……」
黙ってうなずく。静之くんはゴクリと唾を呑み込んだ後、また小さな声で喋り始める。
「声が出ないってことは、俺は障がい者だ。それを、理解したのは中学に上がる前だ。
教師と親から、支援学校を勧められた。いじめられて、心も声を失った俺は、迷わずそっちに進学した。
だけど……また、頑張ってみたくなったんだよ。
支援学校は楽しかった。みんな、何かしらの理由があって支援学校に登校している。
その理由を、あっけらかんと話す奴も、悩んで口を閉ざす奴もいた。右を見ても左を見ても、同じ境遇の奴らがいて心強かった。
俺にとって初めての理解者が、その学校にはたくさんいたんだ。
だけど、切磋琢磨しあっているうちに、また……頑張ってみたくなったんだよ」
「……高校受験?」