好きよりも、キスをして
彼の笑顔の裏に、ここまでの過程があったなんて。知らなかった。
同時に、今、知ることが出来て、本当に良かったと思った。
「ニコニコしてるのは疲れる。けど、最初だけだ。慣れてしまえば、もうなんてことは無い。
今日みたいな枝垂坂の言葉にも反応せずに乗り切ったし。俺を強くする仮面みたいなもんだよ。あの笑顔は」
あははと笑う静之くん。私は、眉間にシワを寄せて、そんな彼を見た。
「……本当に、その仮面をつけたら、強くなれてるの?」
「どういうことだよ」
静之くんは、まるで睨むようなトゲトゲしい口調で反論した。
「俺が弱いって……そう言ってんのかよ?」
「弱い……というか、完璧には強くなれてないよ。だって、枝垂坂さんから言われたあの時――
確かに静之くんは、傷ついた顔をしていたもん」
「……は、冗談、」
「本当だよ。私には分かる。私には……静之くんの心が、泣いているように見えた」
「……」