好きよりも、キスをして
「昨日、桃から静之くんを奪ったって本当?」
「(桃……あぁ、枝垂坂さんの事か)」
そう合点が言ったのは、枝垂坂さんの下の名前を憶えていたからじゃない。
今、私と話している子の後ろに、泣きながらすり寄っている枝垂坂さんがいたからだ。
「(奪ったって……。二人の結婚式に乗り込んだわけじゃあるまいし。オーバーな言い方)」
だけど「どうなのよ」とせかされて、控えめに頷く。すると教室の中が「ワッ」と一気に騒がしくなった。
「聞いたー?最低だね澤田さん」
「ねー大人しい顔して。やることビックリだね」
「桃ちゃんの事を僻んでるんだよ、きっと」
ヒソヒソ声が、あらゆる所から聞こえる。
三百六十度。全方位に、私の敵がいるようだった。