好きよりも、キスをして


「昨日、桃から静之くんを奪ったって本当?」

「(桃……あぁ、枝垂坂さんの事か)」



そう合点が言ったのは、枝垂坂さんの下の名前を憶えていたからじゃない。

今、私と話している子の後ろに、泣きながらすり寄っている枝垂坂さんがいたからだ。



「(奪ったって……。二人の結婚式に乗り込んだわけじゃあるまいし。オーバーな言い方)」



だけど「どうなのよ」とせかされて、控えめに頷く。すると教室の中が「ワッ」と一気に騒がしくなった。



「聞いたー?最低だね澤田さん」
「ねー大人しい顔して。やることビックリだね」
「桃ちゃんの事を僻んでるんだよ、きっと」



ヒソヒソ声が、あらゆる所から聞こえる。

三百六十度。全方位に、私の敵がいるようだった。

< 142 / 282 >

この作品をシェア

pagetop