好きよりも、キスをして
だけど、言われている私は何も分かっていなくて。目の前の光景に、ただ唖然とする。
確かに静之くんの手を引っ張って学校を出たけど、そんなにイケナイ事だったの?
みんな、枝垂坂さんが静之くんに言った言葉を聞いたの?
あの言葉を聞いても、まだ枝垂坂さんの味方をするの?
「(……って言っても。どうせ信じてもらえないだろうし。言っても無駄だな)」
諦め半分。鬱陶しさ半分。
人はどうして、うわさ話が好きなんだろう。尾びれ背びれがついた噂なんて、常に事実とはかけ離れてるじゃない。
「(所詮、皆にとって重要なのは真実じゃなくて、面白い事が始まるかもっていう好奇心なんだ)」
ただの噂が真実になる時――それは。
いつも多数決。
弱者のいう事は、嘘っぱちと決めつける。
権力のある人が、常に上に立つ。
私という弱者は、発言をすることも許されず、悔しそうな顔をすることも許されず。ただ見上げるのみ。
そして、そんな私を見る群衆。それが――皆。
皆のその行動で、噂は真実になるんだ。
「(あぁ、仮面だ。皆の顔に、仮面がついてる)」
皆の顔が、同じに見える。
皆が、のっぺらぼうの仮面をつけているように思える。
ガラッ
すると、そこに「別の仮面」をつけた誰かが入ってくる。
いつもニコニコ笑っている仮面をつけている――静之くんだ。