好きよりも、キスをして

ドアを開けて、長い脚を交互に前に出していた静之くん。

だけど、クラスの様子がおかしいと悟ったのか、ピタリと歩みを止めた。そして、どうやら私が注目の的になっているらしい事に気づく。

そしてクラスの皆と私を、交互に見つめた。


すると、その時を待ち構えていたように、枝垂坂さんが口を開く。

涙は健在だ。ポロポロと、まるで窓についた雨粒みたいに、小さな涙が上からどんどん零れ落ちている。その様子を見て、静之くんは更に困惑した様子だった。

枝垂坂さんは友達の背中から離れて、静之くんの目の前に立つ。ピクッと、彼の眉毛が動いた気がした。



「昨日、静之くんがいなくなっちゃった後……元カレが来たの。私、嫌で、怖くて……思わず叫んじゃったの。”やめて!”って。

そうしたら、元カレに頬をぶたれて……。うっ、うぅ……っ」

「(……)」

「静之くん、痛かったよぅ。私、怖かった……っ」



今になって気づいたけど、枝垂坂さんの頬には大きなガーゼが貼ってある。これでもかと、主張している。


この怪我を見ても、申し訳ないと思わないのか――


クラスの皆の目が、私にそう訴えかけていた。

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