好きよりも、キスをして

行動に移したのは、私じゃなくて静之くんだった。

枝垂坂さんのガーゼの上をそっと撫でて「ここ?」と言わんばかりに、頭をコテンと倒した。すると彼女は「うん!」と可愛らしい声で、しかしか弱そうに返事をしている。



「!」



その光景を見た瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。

ガラガラガラ――と。それは、何かの終わりを告げる音に似ていた。



「(すべては計算……か)」



いま私の目には、全てが嘘に見える。枝垂坂さんのガーゼの下は、実は何も腫れてなくて無傷なんじゃないかと思う。痛いっていうのも嘘で、実はぶたれてないんじゃないか、とさえ思える。



「(あぁ、私も同じかもしれない……)」



皆が噂を本気で信じているように。私も、今は自分の思った事だけを信じようとしている。

枝垂坂さんの全ては演技なんじゃないかと――



「(頭を冷やそう……)」



私は、あっち側にはいきたくない。

のっぺらぼうの仮面をつけて、真実を見ようとしない皆みたいには、なりたくない。



ガタッ



ドアを開ける。廊下に出る。

その時に、

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