好きよりも、キスをして
「わ、ビックリした。なに、いきなり出てこないでよ。ぶつかるとこだったじゃん」
「(沼田くん……)」
たった今、登校したらしい沼田くん。私をギロリと睨んでいる。
「……ごめん、なさい」
「は?今、あやま、」
「(あとは、逃げよう……)」
ペコリと謝り、その場を後にする。
すると、背後から沼田くんの「え、何この教室の空気」という声が聞こえた。
あぁ、沼田くんにも知られてしまった。教室に戻ったら、今以上に「澤田最低だね」とか、そんな罵声が飛んでくる。
「(ナイフが、戻ってくる)」
昨日までは、沼田くんの言葉はナイフにはならなかった。
だけど、今は――絶対に、凶器になる。言葉がナイフになり、そして私を傷つける。
「(逃げよう、それがいい。今は逃げるのが正解なんだ)」
ふぅ、ふぅと、自信のない脚を動かす。
もっともっと動かして、学校から出てやろうかと、そう思っていた時。
パシッ
誰かに、腕を掴まれた。