好きよりも、キスをして


「わ、ビックリした。なに、いきなり出てこないでよ。ぶつかるとこだったじゃん」

「(沼田くん……)」



たった今、登校したらしい沼田くん。私をギロリと睨んでいる。



「……ごめん、なさい」

「は?今、あやま、」

「(あとは、逃げよう……)」



ペコリと謝り、その場を後にする。

すると、背後から沼田くんの「え、何この教室の空気」という声が聞こえた。

あぁ、沼田くんにも知られてしまった。教室に戻ったら、今以上に「澤田最低だね」とか、そんな罵声が飛んでくる。



「(ナイフが、戻ってくる)」



昨日までは、沼田くんの言葉はナイフにはならなかった。

だけど、今は――絶対に、凶器になる。言葉がナイフになり、そして私を傷つける。



「(逃げよう、それがいい。今は逃げるのが正解なんだ)」



ふぅ、ふぅと、自信のない脚を動かす。

もっともっと動かして、学校から出てやろうかと、そう思っていた時。



パシッ



誰かに、腕を掴まれた。

< 146 / 282 >

この作品をシェア

pagetop