好きよりも、キスをして


「ひっ……!」



あまりに突然の事だったので、驚きのあまり短い悲鳴が出て、立ち止まってしまう。

すると、私を掴んだらしい人は「うるさ」と言った。夢の中の静之くんが言いそうな、ぶっきらぼうな言葉だ。

だけど――



「(いま喋ってるってことは、追いかけてきてくれたのは静之くんじゃない……って事か)」



現実の静之くんは喋れない。だから、今喋ったのは静之くんじゃない。違う人だ。

静之くんじゃない誰かが、私の腕を掴んでいる。追いかけてきてくれたのは、彼じゃない――

「ふぅ」と明らかに、肩を落としている自分がいた。



「追いかけてきてあげたのに、ため息をつくとか。明らかに落ち込まれると腹立つんだけど」

「ごめん――沼田くん」



振り向くと、沼田くんがいた。声でなんとなく分かった。

でも……なんで沼田くんが?私を追いかけて来たの?いつも私の事を嫌っているのに?


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