好きよりも、キスをして


そこから視界は暗転する。


いきなり真っ暗な世界の中に引きずりこまれた。だけど、その事に驚く暇もなく、大きなサイレンのような音が、どこからともなく鳴り響く。


ブー


それは、どこかで聞いた音。


そうだ、昔、両親と見に行った映画館で聞いた音。始まりの合図。開始を意味するブザーの音。


だけど、それが分かったところで、どうにも出来ない。私は暗闇の中でクルクル回転しながら進む自分の体を、制御できずにいた。


どこに向かってるんだろう――


そんな当てもないことを、こんな状況で考えてしまう。私、一体どこへ……?



すると、どこからか、声が聞こえた。




「うぜぇ。俺の嫌いなタイプだ。大嫌いな奴だ」





それは空耳だったのか、何なのか。誰もいない暗闇へ目を向けたけど、声の主は見つけられなかった。



あぁもう、一体、何がどうなっているんだか――怖くなって、両目を強く強く、ギュッと瞑る。



そして――


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