好きよりも、キスをして
そうかもしれない――
申し訳なくなって、沼田くんから視線を外す。沼田くんは怒るかと思いきや「別にいいよ」と、あっけらかんとしていた。
「そっちの澤田の方が面白いから。見ていて飽きないし」
「……ありがと」
「別に」
あぁ、そっか。沼田くんって、そういう人なんだ。
私の中の沼田くんが、ぐにゃぐにゃと形を変える。私の中の今までの沼田くんは、常に鬼の形相だった。
けど、今は違う。
無愛想に、だけどただ隣にいてくれる沼田くんの横顔が、私の心に鮮明に記録されていく。
「……静之と、なんかあったの?」
「えっ」
突然、心臓を長い槍で一突きにされたようで……。私は動けなくなって、その場に立ち止まる。
そして、沼田くんも歩みを止めた。だけど、振り返らなかった。背中を向けたまま、私の返答待っているようだった。