好きよりも、キスをして

「ご、め……」

「……」

「私、贅沢だ……」



私なんかを追いかけてきてくれる――

そんな人がいる事だけで有難いのに。私に寄り添ってくれる人がいるってだけで、幸せなはずなのに。


私の心の中の静之くんが、消えない。


枝垂坂さんの頬を撫でたことも。

枝垂坂さんを無視して、私の方へ来てくれなかったことも。

全部全部、記憶から消えてしまえばいいのに――



「付き合うって……なんだろうね」

「へ?付き合う?」

「心から愛されないと、彼氏彼女って、呼ばないのかな……」

「……」



静之くんは、彼女である私よりも枝垂坂さんを選んだ。私の肩を抱くんじゃなくて、彼女の頬を触った。

分かってる。

私と静之くんは、所詮、その場限りのお付き合いで、偽の彼氏彼女みたいなもんだ。



だけど、毎晩のように夢で会っているし、二人きりの時間を過ごしている。

昨日はキスもしたし、ベッドの上で一緒に横になった。



だけど――違うんだ。


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