好きよりも、キスをして


次に目を開けた時は、アパートの一室にいた。

どこのアパートか知らない。誰が住んでいるのかも分からない。

だけど、見知った人物がいた。


それは――



「あぁ……あんたか。澤田朱音」

「……静之、くん……?」

「来ちまったんだな。お前が」

「どういう……?」



部屋着でくつろぐ、静之くんの姿。真っ暗闇の世界から、突然。静之くんの日常とも言える場面に切り替わる。



「(え、あれ……私、川にいたんじゃ……?)」



理解ができなくて、ちょっとしたパニックになる。だけど狼狽える私に、静之くんはこう言った。



「まあ、上がれよ」



それだけ言って、ニヤリと笑ったのだった。

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