好きよりも、キスをして


「一緒に帰るの……一週間は、長いかも」

「じゃあ四日」

「ふふ、あまり変わってない」

「三日!これ以上はダメ」

「うん、分かった。

じゃあ三日間。一緒に帰ろう、沼田くん」



その時の沼田くんが、嬉しそうに見えて。口角がじわりと上がっているのが見えて。

私は思わず、泣きそうになった。

静之くん、私、こんな状況でも、あなたの事を考えてしまっている。

沼田くんと一緒に帰る私を見て、あなたは一体なんて思うだろう――なんて、そんな事を思ってる。



「(沼田くん、ごめんね)」



声は、出ない。出なかったのではなく、わざと、出さなかった。

この言葉は、きっと今は、沼田くんにとってナイフになる。

私は、ナイフは投げない。絶対に。



「ねえ、それより。いいの?教室で何があったか聞かなくて」

「はあ?聞きたくもないよ。どうせ枝垂坂の陰謀でしょ。見りゃわかるよ」



そう言い切って、また歩き出す沼田くん。その背中を見ながら思う。


どうやら彼は、枝垂坂さんが嫌いらしい――

その事に、安堵を覚えた私がいたのだった。


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