好きよりも、キスをして
「うるさくて眠れないから、黙ってくれる?」
以前、私に向けていた怖い顔を、皆に向けるのだった。
ドキン
不覚にも、庇ってくれたという事実が、私の胸を大きく揺らす。まさか、あの沼田くんを「カッコイイ」と思う日が来るなんて。思ってもみなかった。
「あ、ありがとう」
ガタンと、また大げさなくらいに大きな音をさせて着席した沼田くん。皆を見ると、沼田くんの迫力に恐れをなしたのか、もう私のことを噂する人はいなかった。
沼田くんのおかげだ。何もかも。
「何お礼言ってんの。俺は別に。寝たかったから言ったまでだから」
「うん、ありがとう」
「~だから! ……いいや、もういい。寝るから話しかけないで」
「(コクリ)」
「別に返事くらいはしてくれてもいいけど?」と文句を言った沼田くん。だけど私がもう喋らないと思ったのか、自身で組んだ腕の中に顔を埋めた。机に突っ伏している。どうやら、本気で寝るようだった。