好きよりも、キスをして
「……ありがとう。本当に」
うるさいと、また怒られちゃいけないから。極力、小さな声で、再度お礼を言う。
沼田くんがいなかったら、今の私はいないよ。とっくに家に帰ってると思う。そして、もう二度と来ない……は言い過ぎだけど、ほとぼりが冷めるまでは登校しない。絶対に。
すると、寝ていたかと思われた沼田くんは「別に」と、くぐもった空間から返事をした。顔を上げる気はないらしい。寝たふりよろしくで、声は続いた。
「好きなヤツの事なら、守ってあげたいって思うんじゃないの」
「!」
「俺じゃなくて、一般論だから!」
「わ、分かってるから……っ」
「ふん」
全く寝たふりになっていない沼田くん。今、一体どんな顔をしてるんだろう。
まさか、沼田くんの口から「守ってあげたい」なんて言葉が聞けるなんて……。今までの彼とは違ったイメージ。