好きよりも、キスをして
結局、沼田くんの問いに返事はしなかった。いいんだ。これで。
だって沼田くんとは、現実世界でいくらでも話が出来る。疑問に思った事、不満に思った事――
全て全て、日の明るいうちに、話し合う事が出来るのだ。
「(もちろん、夢の中みたいに、タイムリミットを気にしなくていいしね)」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。皆が慌てて席に着く。
生徒が教室内を右往左往している、その時に。チラリと静之くんを盗み見た。
その時の彼は、いつものニコニコした仮面をまだひっつけていて。そして、まだ授業開始の号令もかかっていないというのに、必死にノートをとっていた。
「(そういや、課題があったなぁ……)」
キスやら同じベッドで寝るやらを、昨夜過ごした私。ドキドキした面持ちで課題に身が入るわけもなく、私のノートは清々しいくらい真っ白だった。