好きよりも、キスをして

いつ零れ落ちるか分からない涙が、目に留まっている。だけど沼田くんは、尚も空を見たり道路を見たり。どうやら、私の事には気づいてないみたいだった。


すると突然、大きな口が「澤田は変わったから」と動く。

沼田くんの、今日二度目となるセリフだった。



「今日だって、あんな大勢に悪口言われたら、普通逃げ出す。泣き出す。

けど、澤田はそうしなかった。前の澤田だったら、考えつかない。ガタガタ震えて、無言で委縮して、それで終わり。授業中あてられても、絶対無言だったと思う。


だけど、今日は違った。

変わったっていうのは、強くなったって意味もあるから。そこは、自信持ちなよ。

澤田は、強くなった」

「!!」



そう言った沼田くんと目が合った瞬間、ダムが決壊するように、涙が零れ落ちた。ポタポタと、水道を緩く締めたような。

緩く、だけど止まらない水――小さなシミがいくつにも重なって、地面を濡らす。

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