好きよりも、キスをして
「ありがとう、沼田くん。大丈夫だから」
「大丈夫って顔じゃないでしょ。いつもよりヒドイから!見てらんないから!」
「ふふ、そうだね」
「っ……」
私の、珍しく爽やかな笑みを見た沼田くんは。私の顔を見て、固まった。その心の内で、何かを察している風だった。
「澤田……」
「ん?」
「いや……明日も、来てよね。学校」
「……行くよ。今、約束しちゃったからね」
そう言うと、沼田くんの顔が少し歪んだ。意地悪な言い方をしてしまったと、少し反省する。
「それに、三日間。一緒に帰るって約束もあるし。あと二日、よろしくお願いします」
「……ふ、ふん。分かったよ」
「ふふ」
また、私の笑顔を見て。沼田くんは何かを言いたげな顔をした。少しだけ開けた口は、きっと。勇気を出して、私に何かを言うとした証。
だけど、その口から言葉が発せられることはなく。静かに、空気だけが漏れ出た。