好きよりも、キスをして
「……じゃあ、明日」
「うん。またね」
二人別々の分岐点にたどり着き、手を振って別れる。私は沼田くんのハンカチを握ったまま、別れを告げた。そして、前を向いて歩き出す。
そして沼田くんも、既に歩き出していると。思っていた。
だけど――
「あ、澤田」
「ん?なに?」
「横、絶対見ないでね。見たら許さないから」
「え、なに。いきなり……」
また何を言ってるんだろう――そう思いながら、乾いた笑いと共に、今まで見向きもしなかった横を見た。
そして、すぐに後悔した。
「(あぁ、やっぱり沼田くんは、意地悪だ)」
私の目の先には、一組の男女。
ニコニコしながら静之くんの腕にからみつく枝垂坂さんと、いつものニコニコのお面をつけている静之くん。その二人が、スマホを片手に、こちらへ歩いてきていた。