好きよりも、キスをして


「(最後だから)」



それだけを口パクで言い残し、踵を返す。後ろから「待って」と声が聞こえないのはもちろん。静之くんが追いかけてきて、私の肩を掴むとか。そういうアクションも、全くない。



「(やっぱり、そういう事なんだね。分かったよ、静之くん)」



私の心は決まった。

あとは夢の中で、頑張るだけ――









そして、ついに――その時がやってきた。



ブー



ブザーの音と共に始まる、夢の時間。

私は閉じていた瞳を、ゆっくり開けた。


その時だった。



ダンッ!!



いきなり体に衝撃が走る。

最初は痛くて目が開けられなかったけど、だんだんと痛みが引いてきた頃に、薄ら目を開けてなんとか状況が把握できた。


状況は、把握、出来た。

けど……。

どうしてこうなっているか、という理解までには、至らなかった。



「なんで私を押し倒してるの……静之くん?」



私は、静之くんに押し倒されていた。ソファでもベッドでもない、地べたに。

私がここに着いた瞬間に、押し倒したって事か。床に。どうりで痛いはずだ。


だけど、体に痛みを覚えている私よりも顔を歪めたのは、静之くんの方だった。

その顔は何か怒っていて、そして、どこか切なそうで――


私は食い入るように、その顔を見つめていたのだった。


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