好きよりも、キスをして
「(最後だから)」
それだけを口パクで言い残し、踵を返す。後ろから「待って」と声が聞こえないのはもちろん。静之くんが追いかけてきて、私の肩を掴むとか。そういうアクションも、全くない。
「(やっぱり、そういう事なんだね。分かったよ、静之くん)」
私の心は決まった。
あとは夢の中で、頑張るだけ――
◇
そして、ついに――その時がやってきた。
ブー
ブザーの音と共に始まる、夢の時間。
私は閉じていた瞳を、ゆっくり開けた。
その時だった。
ダンッ!!
いきなり体に衝撃が走る。
最初は痛くて目が開けられなかったけど、だんだんと痛みが引いてきた頃に、薄ら目を開けてなんとか状況が把握できた。
状況は、把握、出来た。
けど……。
どうしてこうなっているか、という理解までには、至らなかった。
「なんで私を押し倒してるの……静之くん?」
私は、静之くんに押し倒されていた。ソファでもベッドでもない、地べたに。
私がここに着いた瞬間に、押し倒したって事か。床に。どうりで痛いはずだ。
だけど、体に痛みを覚えている私よりも顔を歪めたのは、静之くんの方だった。
その顔は何か怒っていて、そして、どこか切なそうで――
私は食い入るように、その顔を見つめていたのだった。