好きよりも、キスをして


「緋色は、私を変えてくれたよ。良い方に。すっごく、良い方に」

「そんなにかよ」

「そんなに、だよ。いつも逃げたばかりいた私が、逃げなかった。枝垂坂さんからも、教室からも。

緋色からは、私に無かった強さを、教えてもらった」

「逃げる、か……。でも、それはある意味、朱音の特技だろ」

「へ、特技?」



緋色は、私を胸からソッと離す。私を見る目は、とても優しかった。



「人は誰でも逃げれない。逃げるにも、すげー勇気がいるんだ」

「そう、なのかな……」

「そーだよ。むしろ”立ち向かうのが正しい”って事の方が少ねぇ。嫌な物からは、目を背けちまえばいーんだよ」

「(そう言えば、沼田くんも言ってたなぁ)」



教室で、私を噂する皆を、私が見ていた時。気分が悪くなるなら皆を見なければいいと、確か沼田くんはそう言ってくれた。

確かに。その通りだ。

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