好きよりも、キスをして


「(時には逃げる事も必要、か。私の逃げ癖は、全てが悪い事じゃなかったんだな)」



少しだけ、自分に自信が持てた。反対に、緋色の事が気になった。

さっき話す時。私のことを、羨んでいるような口ぶりだったからだ。



「緋色は「何か」から逃げたいの?」

「!」



意表を突かれたような顔。緋色のそんな顔を見るのは、初めてのことだった。



「緋色、何か悩んでるんじゃ、」

「いや、何でもねーよ」



スッと、音もなく立ち上がった緋色。何をするかと思いきや、玄関扉の前に立つ。そして、足を大きく上げたと思ったら、ドアノブのないドアを、力いっぱいガツンと蹴った。



「きゃ!?」



凄い音がした。と同時に……今までそこにあったドアは、影も形もなくなっていた。

< 198 / 282 >

この作品をシェア

pagetop