好きよりも、キスをして
「(時には逃げる事も必要、か。私の逃げ癖は、全てが悪い事じゃなかったんだな)」
少しだけ、自分に自信が持てた。反対に、緋色の事が気になった。
さっき話す時。私のことを、羨んでいるような口ぶりだったからだ。
「緋色は「何か」から逃げたいの?」
「!」
意表を突かれたような顔。緋色のそんな顔を見るのは、初めてのことだった。
「緋色、何か悩んでるんじゃ、」
「いや、何でもねーよ」
スッと、音もなく立ち上がった緋色。何をするかと思いきや、玄関扉の前に立つ。そして、足を大きく上げたと思ったら、ドアノブのないドアを、力いっぱいガツンと蹴った。
「きゃ!?」
凄い音がした。と同時に……今までそこにあったドアは、影も形もなくなっていた。