好きよりも、キスをして
緋色は、自分の手が外れんばかりの勢いで、ドアの方へ思い切り肘を伸ばした。それに倣って、緋色の手と繋がった私の体が、玄関へ大きく傾く。
そして態勢を崩した私が、今にも闇の中に落ちそうになった。その光景を、緋色が確認した瞬間に。
パッと。
私と繋がった手を、緋色は躊躇なく離した。
「え――」
すると、何のつっかかりもなく、私の体は闇の中に落ちていく。闇に触れた瞬間、足の先からどんどん自分が消えていくような、そんな感覚を覚えた。
「まっ、て。待って!緋色!!」
闇に呑まれる中、必死に緋色の名前を呼ぶ。あがいて必死に手を伸ばす。
だけど、私を見下ろす緋色から、意に沿わず私はどんどん下がって行った。二人の距離は、離れていくばかり。
そして、
「じゃーな、朱音」
「ひ、い……ろ――」
緋色の最後の言葉で、私の意識がなくなる。
見上げていた部屋も、いつの間にか。姿を消していたのだった――