好きよりも、キスをして


緋色の声、話し方。そして――私の名前を呼んでくれる時の優しい息遣い。


もう全部、ぜんぶ。さっきの夢で最後だったんだ。最後の夢で、最後。本当に、終わり。


自分で望んだことのはずなのに。自分で緋色に「今日で最後」って言ったはずなのに。

その通りになると絶望した。私は今こんなにも、あなたに会いたくてたまらない。

緋色、ごめんね。私はとんでもなく、身勝手だ。



「緋色……緋色。ごめんね、緋色。でも、こんな終わり方ってないよ……っ」



私はまだ、あなたに聞きたいことがたくさんある。問い詰めたいことも。

だけど一番聞きたいのは、緋色の心のこと。何の悩みを抱えているのか、私に教えてほしかった。



「だけど、私はもう、きっと話すことさえ叶わない……」



最後に私を見た、あの緋色の表情。あの顔を見ただけで、何となく分かってしまう。

きっと緋色は、現実世界でも私に近寄らない。手を握って帰ることもない。目を合わせることも、きっと敵わない。



――じゃーな、朱音



緋色が、私を暗闇に落とした瞬間に、全てを察した。


緋色は、私とは、もう関わってくれない。って。


< 204 / 282 >

この作品をシェア

pagetop