好きよりも、キスをして
「緋色~……っ」
あんなに優しく抱きしめておいて。
あんなに激しいキスをしておいて。
あんなに忘れられない夜を共に過ごしておいて。
熱の冷めることのない心臓を、私に寄こしておいて。
どうして、勝手に私から去ろうとするの。
ねえ、緋色。
「私、ろくにお礼も言えてないよ。話したりないよ。もっともっと、私の隣にいてよ……っ」
とめどなく流れる涙は、まるでダムが決壊したようで。
最初こそ拭いていたけど、無駄だと思ってやめた。ティッシュの無駄だ。労力が無駄だ。
全部ぜんぶ、無駄だ。
「私の想いも、無駄だったのかな……」
そんな事、思いたくもないけど。
でも、終わったんだ。
私の恋は、ここまで。
緋色との思い出も、ここまでなんだ。