好きよりも、キスをして
「いってきます……」
準備をして家を出る。お母さんは今日はもう出勤していたらしく、「いってらっしゃい」という声は聞こえない。
そんな些細な事さえも、私の心の内を、どんどんと黒く染めていくのだった。
◇
やっとのことで止まった涙。だけど、泣きはらした目は、どうにも誤魔化せるものではなかった。
特に、沼田くん相手だと。
ガラッ
「おは……って、何その顔。いつにも増してヤバいよ?帰ったら?幽霊みたいな奴の隣で授業受けたくないんだけど、俺」
「はは……沼田くん、おはよ」
朝から元気な沼田くん。予想通りの辛辣な言葉が、もういっそギャグに聞こえてきて。少しだけ笑えた。
「ねえ……もしかして、俺のせい?」
「沼田くんの?なんで?」
さっき眉間に寄せたシワを解きながら、沼田くんは俯き加減で私を見た。