好きよりも、キスをして

「いってきます……」



準備をして家を出る。お母さんは今日はもう出勤していたらしく、「いってらっしゃい」という声は聞こえない。


そんな些細な事さえも、私の心の内を、どんどんと黒く染めていくのだった。







やっとのことで止まった涙。だけど、泣きはらした目は、どうにも誤魔化せるものではなかった。

特に、沼田くん相手だと。



ガラッ



「おは……って、何その顔。いつにも増してヤバいよ?帰ったら?幽霊みたいな奴の隣で授業受けたくないんだけど、俺」

「はは……沼田くん、おはよ」



朝から元気な沼田くん。予想通りの辛辣な言葉が、もういっそギャグに聞こえてきて。少しだけ笑えた。



「ねえ……もしかして、俺のせい?」

「沼田くんの?なんで?」



さっき眉間に寄せたシワを解きながら、沼田くんは俯き加減で私を見た。


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