好きよりも、キスをして
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同じ赤を持つ君へ
仕返しなんてされたら、俺も、仕返さねーと気が済まねーから。
だから、書いてる。めんどくさがらずに、最後まで読めよ。
今、教室でこれを書いてる。英語の授業が始まったばかりだ。今日は課題が出てる。
お前は、今必死に物書きしてる俺を見て”課題を頑張ってるんだろうな”とでも思ってんだろ。
ちげーよ。あの時の俺は、必死にこれを書いてたんだよ。
ごめんなって、一言謝りたくて。
あの日の放課後。
枝垂坂を無視して、俺の手を握って走ってくれたお前。あの時のお前は、枝垂坂から俺を庇ってくれたのに。
俺のためにしてくれた事なのに、教室で矢面に立っているお前を、俺は助けなかった。
恩を仇で返すってのは、こういう事なんだな。すげー気分が悪ぃよ。
って、自分でしてる事なのに、何言ってんだって話だよな。悪ぃ。
俺はお前を尊敬してる。すげー尊敬してる。
きっとお前は気づいてねーけど。俺は、お前こそ強いと思う。
お前は立派なヤツなんだよ。
だから、もう俺から解放されろ。
俺の事なんて忘れちまえ。
その方がお前は幸せになれるから。
俺だってもう懲り懲りなんだよ。
世話になったお前が、クラスの奴らに悪く言われるの。
だから、俺と関わるな。
俺に、近寄るな。
俺を、目で追うな。
お前を楽にしてやりてぇんだよ。
お前を守ってやりてぇんだよ。
恩を仇で返したままじゃ嫌なんだ。
俺が最後にしてやれることは、お前を守る事だ。そして、お前を守る方法は一つしか思いつかねぇ。
それは、俺と別の人生を歩むことだ。
だからお前と離れる。そう決めた。
夢の中でも、現実でも。お前と決別するって。
世話になったな。
同じ赤を持つお前。
決して交わらなかった俺たち。
でも、きっとそれが正しかったんだ。
交わらない方が、正解なんだ。
俺は、身をもって知った。
このノート、燃やそうと思ったよ。何度も。
でも、お前にどうしても仕返ししたかったからな。
だから、お前に託す。
俺からの手紙を読み終わったら、
このノートを燃やせ。
全ての縁を断ち切るように、
真っ赤な炎で焼いてしまえ。
赤い俺ららしい最後だろ?
じゃ、頼んだぜ。
同じ赤を持つ者より
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