好きよりも、キスをして
朱音と決別して二日が経った。
昨日、朱音が登校した時。その姿を見た俺は、息を呑んだ。
朱音の泣きはらした目。沈んだ表情。重たそうな足取り。
それら全ては、俺のせいだと分かっていたから。澤田への申し訳なさで、息が詰まりそうだった。
「(朱音、悪ぃ。朱音……)」
何度、そう口にしようと思ったか。何度、あいつの元へ行って話をしようと思ったか。
だけど、それを出来ずに済んだのは。皮肉にも、この声が出ない体質のおかげだった。
喉まで出かかった声は、決して発せられることは無い。ただ静かに、いつも静かに。俺の心臓へ、ゆっくりと戻ってくる。