好きよりも、キスをして
「俺、やべぇ……。やべぇ、俺……」
「(回文?)」
静之くんの何かは知らない後悔は留まるところを知らないのか「あー、わー」と声がずっと漏れていた。しかも、割とうるさい。
「どうしたの?」と話を聞く良心的な女子だったら良かったんだけど。
今の静之くんを怖がっている私は、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。なので、踵を返してドアノブを握ろうとする。
だけど、
「(あれ?)」
玄関扉には、ドアノブがなかった。
それはつまり、このドアを開ける術がないことを意味する。
「(え、え?えぇ?)」
声には出さないものの、更にパニックになる私。
冷静に考えたら、移動した記憶がないのに静之くんの部屋にいることが怖い。外が真っ暗になるほど時間が過ぎてるのも怖い。しかもドアノブがない……
それって、つまり――
「(誘拐!監禁!?)」
背筋がゾッと寒くなる。
するとちょうどタイミング悪く「おい」と静之くんが声をかけた。