好きよりも、キスをして



「(そう、それでいいんだ。それが正解なんだ)」



自分で手紙で書いたように。それが最善なのだと信じて――

今日も俺は朱音と距離を取り、枝垂坂の隣にいる。


そんな俺を、不満そうに見ている視線が一つ。朱音ではない。別の誰かの視線を、俺は体のあらゆる箇所から感じていた。

だけど俺は決して視線を合わせることなく、昨日と、そして今日を終えようとしている。



キーンコーンカーンコーン



「(帰るか……)」



気づくと放課後になっていて、俺は今日一日何をしただろうと疑問に思う。けど、答えは簡単だ。

何もしていない。たまに朱音の方を、盗み見ていただけ。本人に気づかれないように。

ただ、それだけだ。


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