好きよりも、キスをして
「(つまんねーなぁ……)」
また、今日が終わるのか。朱音と会う事のない夜を。また一人で、迎えるのか。
そんな事を思っていた時だった。
「ちょっと、話があるんだけど」と肩を叩かれた。
相手は、近ごろ澤田と仲が良い沼田だった。そして、最近、俺を睨むように見つめていた張本人だ。
放課後になって、人気の少なくなった教室で声を掛けられた。俺はいつものニコニコした面をつけて返事をする。
「(話?)」
「教室じゃ目立つから。来て、こっち」
「(わかった)」
「あ、あの煩い女は置いてきてよ。耳障りだし目障りだから」
「(……もちろん)」
煩い女――枝垂坂のことだ。
現在、枝垂坂は女子集団と一緒にトイレへ行っているようだった。朱音は、ホームルームで担任に職員室へ呼ばれていた。既に職員室へ向かっているらしく、姿はない。
なるほど。この時を狙って話しかけてきたってわけか。
「(実は計算高い奴なんだな、沼田って)」