好きよりも、キスをして
「緋色、私たち……。やっと、交われたね」
「(うん。やっとだ)」
俺たちは、人目をはばからず抱き合った。沼田は、そんな俺たちに愛想を尽かして「勝手にやってれば?」と一言呟いて、去ろうとした。
だけど去り際、俺の方へ近寄ってくる。
拳の一つくらい飛んでくるかと思いきや、沼田は自分の手を、俺のズボンのポケットに、ズボッと押し込んだ。
「(え)」
「お前さ、不器用すぎなんだよ。俺を見なよ。俺ってケンカ強い人に見えるでしょ?けど強くないんだよ。むしろ嫌いなんだよ。
でも、俺にケンカを挑もうとするゴロツキはその辺にいるよ。迷惑してるよ。だから俺は、コイツを持ち歩いてる」
「(コイツ?)」
沼田の手が抜けたポケットに、俺の手を突っ込む。取り出してみると、それは小さな防犯ブザーだった。