好きよりも、キスをして



「澤田……っ?」



今のが本当に朱音の声かと、驚いたらしい沼田は、思わず振り返る。その時の沼田の目は、少し潤んでいて……。



「幸せにならないと、いくらケンカが苦手な俺でも、お前をぶっ飛ばすからね?静之」



ニカッと、今まで見せた事もない笑みを浮かべ、また、俺たちに背を向けて歩き出したのだった。



「(沼田……ありがとう。もちろん、幸せにする。俺の全てをかけて――)」



沼田を見送った朱音は、俺の方へ戻ってくる。そして「少ししゃがんで」と、俺に低くなるよう言ってきた。

言われた通りにしゃがむと、朱音は俺の髪へ手を伸ばす。あぁ、走って乱れた髪を、直してくれてるのか。



「(ありがとう)」

「どういたしまして」



力なく笑う朱音が、可愛くて。可愛すぎて。なんで、こんなに急に可愛く思えてしまうのか、自分でも不思議なくらいだった。

だけど、その理由は漠然と分かる。

なぜなら――


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