好きよりも、キスをして
「なんで?」
「(今の俺には、いらねぇもん)」
そう言って笑った俺は、朱音の手を握る。ギュッと恋人繋ぎをすると「ここ外だから!」と顔を真っ赤にして訴える朱音。
バカだなぁ。さっき、それよりも恥ずかしい事を、堂々とやってのけたじゃねーか。
思わず吹き出して笑うと、朱音も何となく理解しているのか「そうだけど」と言って、もう片方の手で自身の顔を隠した。
でも、まぁ。完全に目立っちゃってるし、肩身が狭いのは俺も一緒だ。
「(帰るぞ、朱音)」
「うん、一秒でも早く。帰ろう……っ」
真剣な顔で、真剣にそんな事を言う朱音が面白くて。俺はただじっと、正真正銘「彼女」になった朱音のことを見ていた。