好きよりも、キスをして
「ありがとう、緋色。心配してくれて。私、もうバカな事は言わない」
「(いや、バカなって事は……。悪ぃ、俺もビビらせちまった)」
「ううん。私も、自分でもっと気を付ける。防犯ブザー五個くらい買う!」
「(……)」
「買うから!」
「(……ぷっ、ほんとに変なヤツだな。お前)」
「!」
あ、笑ってくれた。
緊張で強張った緋色の顔が、少しずつほどけていくのが分かった。その顔を見て、緋色の笑顔を見て……。私の顔にも、笑顔が戻って来た。
「(あぁ、やっぱり。緋色が笑うと、私も笑える。緋色は、私の全てだ)」
そう思った。それは、すごく幸せな事だった。
私の全てである緋色が、今、私の隣で笑っている。枝垂坂さんの隣ではなく、私。その現実は、これ以上にない幸せなことだ。
だけど――