好きよりも、キスをして
「夢、なのに……私、全部ぜんぶ覚えてる……っ」
静之くんの部屋の様子も、彼の言動も。全て――
「夢なのに?っていうか、本当に……夢?」
ベッドに無造作に置かれたスマホを手に取る。見ると、日付が一日進んでいて、時刻は朝の六時だった。
という事は、さっきの出来事を「夜に見た夢」と考えるのがしっくり来る。にわかには、信じられないけど……。
「私、昨日……どうやって帰って来たんだろう……」
壁にキチンとかけられた制服を見る。いつもの私の掛け方だ。
次に、鞄を見る。中を確認する。そして――気づく。
「課題も小テストの勉強も、何もしてない……!」
登校するまで、あと二時間――
夢の事を考えるのもそこそこに、私は急いで机にかじりついて勉強を始めたのだった。