好きよりも、キスをして






「緋色も用事が済んで後は帰るだけ、かぁ。沼田くん、私、緋色を下駄箱まで見送ってくるね」

「はいはい、分かったよ。保健室に行ったって言っとけばいいんでしょ?」

「(ありがとな、沼田)」

「……今のは、さすがの俺でも何となく分かったよ。

いいから、先生来る前にさっさと行きなよ」



沼田くんがヒラヒラとさせた手に、緋色が自身の手をパンッと打ち付ける。

沼田くんは最初こそ驚いた顔をしたけど、だけど少しだけ口角を上げた。そして「負けないから」と言って、緋色を一瞥する。

緋色は一度だけコクンと頷いて、そして教室から出た。自分の荷物の全てをカバンに入れて。



パタパタ――



二人並んで、廊下を歩く。

もう授業開始がすぐだからか、廊下に出ている生徒は、ほぼ誰もいない。私たちの上履きの音が、長い廊下に響いた。

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