好きよりも、キスをして
◇
「緋色も用事が済んで後は帰るだけ、かぁ。沼田くん、私、緋色を下駄箱まで見送ってくるね」
「はいはい、分かったよ。保健室に行ったって言っとけばいいんでしょ?」
「(ありがとな、沼田)」
「……今のは、さすがの俺でも何となく分かったよ。
いいから、先生来る前にさっさと行きなよ」
沼田くんがヒラヒラとさせた手に、緋色が自身の手をパンッと打ち付ける。
沼田くんは最初こそ驚いた顔をしたけど、だけど少しだけ口角を上げた。そして「負けないから」と言って、緋色を一瞥する。
緋色は一度だけコクンと頷いて、そして教室から出た。自分の荷物の全てをカバンに入れて。
パタパタ――
二人並んで、廊下を歩く。
もう授業開始がすぐだからか、廊下に出ている生徒は、ほぼ誰もいない。私たちの上履きの音が、長い廊下に響いた。