好きよりも、キスをして


「今、何を考えてるの?」

「(朱音が”好き”って言葉にしてくれるのに、俺はそれを返せないなってな。

俺も、好きって言えたらよかった。夢の中に戻りてぇな。もう一度。朱音と思い切り話がしてぇって……そう思うんだ)」

「緋色……」



自分の手で終わらせた「夢の世界」。緋色にとっては、「自分が唯一話せる世界」だったわけだから、名残惜しいのも分かる。もう一度、夢の世界へ行きたいのも分かる。



でもね、緋色。

私、今はこう思ってるんだよ。



「好きよりも、キスをして」



「(……朱音?)」



少しだけ後悔に揺れている緋色の瞳を、手繰り寄せる。

緋色、見て。

過去の「夢の世界」に思いを馳せるんじゃなくて、今の私を、もっと見て?

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