好きよりも、キスをして
トントン
キスの後、緋色が靴を履く。履いていた上履きは、持って来たビニール袋に入れていた。
「忘れ物はない?」
「(ぷ、なんだよ。新婚みてーだな)」
「ふふ」
吹き出した緋色を見て、私も笑う。曇った顔ではない緋色。心から笑う緋色。
うん、もう大丈夫だね。緋色。
私から目を逸らさない緋色の両腕をもって、グルンと向きを変える。私の視界いっぱいに、緋色の広い背中が映った。
がんばれ、緋色。がんばろうね、私たち。
背中にエールを送る。
きっと困難があっても、乗り越えていける、私たちなら。