好きよりも、キスをして
「(また今日の晩。夢の中で。話はその時に)」
そう書かれていた。
「(その夢の事について聞きたいのに……!)」
だけど、しつこい私を見越してか否か。静之くんは既に私から目を逸らしていて、再び視線を合わせる気はなさそうだった。
私と同じように、一人。たった一人で、机に向かっている。
「(静之くん、イケメンだし優しいし、人気者になりそうなものなのに……なんで一人でいるんだろう)」
夢の中の静之くんの事は置いといて。今、私の目に写る、静之くんの事を考える。
誰とも話す素振りがない。ばかりか、誰も静之くんに話しかけない。彼がそこへいないような雰囲気さえ漂っている。
「(私にだけ見えてる?まさかね……)」
そう非科学的な事を思った瞬間、静之くんの背中に、手が当たった女子がいた。女子はすぐ「ごめんね!」と謝り、それに対し静之くんは、笑顔で首を横に振っていた。
「大丈夫だよ」――という彼の声が、聞こえてきそうだった。