好きよりも、キスをして

だけど、これは聞こえない。思い返せば、昨日もそうだった。静之くんは、無言で沼田くんを止めていた。



「(これは、まさか……)」



私は、とある予想をする。そして今日の夢の中で静之くんに直接聞いてみようと、手の平にメモとして書き残した。


するとちょうど、沼田くんが席へ帰ってきた。


手のひらにコソコソ何かを書く私を見て「まさかカンニング?」と無遠慮に聞いてくる彼。


あらぬ疑いをかけられて、さすがにカチンときた。


黙ったままカバンの中からウェットティッシュを取り出し、必死に手のひらを擦る。

そして何も残ってない真っ白な手のひらを、控えめに沼田くんに見せたのだった。


そんな私の行動に、沼田くんは「ふ、ふぅん」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔で返事をした。


そして、もう一人。


こっそりと私の一連の様子を見ていた静之くんが、誰にもバレないように、笑いをかみ殺していたのだった。

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