好きよりも、キスをして
「おう、来たか」
「(……ペコ)」
目を開けると、そこにはやっぱり静之くんがいた。さっきまで私とメールをしていたのに、もうこっち(夢の中)にいる。
しかも、待っていてくれたのかな?
机の上に、湯気が出ているマグカップが、二つ並んでいる。一つは静之くんの分。そして、もう一つは……私の分、だよね?
当の本人はというと、またラフな格好をしている。ダルダルの黒のジャージ。今日は壁に背中を預けて、何やら読んでいるようだった。
「まさか今日もそこに突っ立ったまま、って事はねーよな?」
「(……お邪魔します)」
静之くんに笑いながら言われて、昨日の事を思い出す。確かに、昨日は玄関だけで完結してしまった。一歩も部屋に入っていない。
私はペコリとお辞儀をした後。遠慮がちに靴を脱ぎ、そして――そろりそろりと、部屋を歩いた。