好きよりも、キスをして
コーヒーを飲んでいた静之くんは、教室で見た「穏やかな彼」そのものだった。
だけど、ふと――何を思ったか知らないけど「あ、ここ夢か」と言った。誰に聞かせる訳でもなく、ポツリと。
すると、まるで人が変わったように、静之くんは、私のよく知っている静之くんになった。
目の鋭さから、顔の表情、態度に至るまで一変する――姿勢の良かった彼の佇まいは、白髪のおじいちゃんみたいに猫背に丸まった。
「(ビックリというか、不思議な気分……)」
教室にいる静之くんと、ここにいる静之くんが、違いすぎる。違いすぎて、どっちが本当の静之くんか分からない。
けど、私には……今、目の前にいる彼が、本物の静之くんな気がした。