好きよりも、キスをして
幸いにも、さっき飲んだコーヒーが、口内の潤滑油になったらしい。私はゆっくりとだけど、喋ることが出来そうだ。
と言っても、誰かと近い距離で話すのは久しぶりで……心臓はバクバクと、煩いくらい音を立てている。
「(心臓が、私の体を揺らしてるみたい……)」
コーヒーの水面をチラリと見る。すると、水面は微動だにせず、凪のように静かだった。
それを見ると私も少し落ち着くことが出来て……ポツリ、またポツリと。自分の名前を、まるで苦手な英語を話しているみたいに、ゆっくりと喋る。
「さ、わだ……あかね……です」
「おー喋れたな。合格」
「(面接官……?)」
パチパチと、心にもない拍手をした静之くん。机の上に肩肘をついて「じゃ、質問どーぞ」と、それきり黙った。
今の間に、何でも聞けって事かな?
なら――
「あ、のさ……一番に聞きたいのは……この世界の、こと」
拳をギュッと握る。手の中は、既に汗で湿っていた。