好きよりも、キスをして


その後――またお母さんとバタバタした朝を過ごした後。いつも通りに登校する。


教室に入ると静之くんは既に席に座っていて、何やら本を読んでいた。私は、少しだけぎこちない足取りで、自分の席に着く。

静之くんの姿を見ただけだというのに、妙な申し訳なさから、つい挙動不審な行動をしてしまう。すると、そんな私を不審な目で見るのが、沼田くんだ。



「澤田、腹でも痛い?行動がキモい」



苦い青汁でも飲んだみたいな、変な顔で私を見る沼田くん。どうしてこの人は、私の腹が立つ言葉ばかりをチョイスするんだろう……。



「(フルフル)」



また「無視かよ」なんて言われたら、たまったもんじゃない。一応「違う」という意思表示だけは、見せておいた。


あ、でも――


ここで、ふと思い出す。

今朝ベッドの上で、沼田くんに感謝したことを。私の手のひらの文字を消す「きっかけ」を作ってくれたことを。



「沼田くん……ありがとね」

「……へ?」

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