好きよりも、キスをして

でも、さっきの――「いないんだね。気づかなかったぁ」は無いんじゃない?「気づかない」って言葉、私は嫌いだな……。


まるで、その人が存在していないかのような言葉。現実にいたかいないか、影の薄さを指摘するような言葉。


それらはきっと、ナイフだ。


以前、沼田くんが私に投げた言葉と同じ。胸に刺さって、なかなか抜けない。ジワジワと苦痛を与える「それ」と同じだ。



「(枝垂坂さん、皆から人気があるっていうけど……。でも、そういう言葉も使うんだ……)」



私はちょっと苦手かも――そう思った時だった。



「……うるさ」



隣で伏せて寝ていた沼田くんが、顔の半分だけ上げて、枝垂坂さんを見た。

突然の事で固まる私とは反対に、沼田くんは眉間にシワを寄せたまま、またすぐにうつ伏せになる。丸まった背中が、呼吸をする度に、これでもかと大きく上下に波打っていた。

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