好きよりも、キスをして

「私、嬉しかったよ……?」



それだけ言うと、静之くんはピタリと笑うのをやめた。黙ったまま、今日も自身で用意したマグカップの中を覗いている。



「静之くんは初め、学校で私を遠ざけた気がした……。だけど今日、話かけてくれた。

静之くんに、もっと近づいていいって言われた気がして……嬉しかった」



梅ジュースの入った缶を持つ私。

緊張でフルフルと震える手に合わせて、ジュースの中身もさざ波が起きている。時折チャプという音が、静かな部屋にこだまするようだ。


その静寂を破ったのは、静之くんだった。



「お前、俺が話したって言うけど……。昨日も言ったろ。俺は話せねーんだって」

「……知ってる」

「なら、」

「でも、聞こえた。静之くんが私に喋ってくれた言葉、ちゃんと聞こえたもん」

「……」

「……」



私、何を意地になってるんだろう。こんな事を言ったって、静之くんは「頭おかしい奴」で終わらせてしまうに決まってるのに。


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