好きよりも、キスをして
だけど「聞こえなかった」というのも、違う気がした。だってあの時、私は静之くんが何て言ったか、はっきり分かったんだから――
すると、激しくぶつかり合っていた二つの視線は、静之くんのため息でズレていく。静之くんは、私から再びコーヒーへ視線を移した。
「お前、バカだバカだと思ってたけど、やっぱりバカなんだな」
「……例え私がバカでも、静之くんが喋った事だけは否定しないで」
「なんで俺のために、そこまで必死になってんだよ。ってか――お前のその意地って、俺のため?」
「!」
誰のため?なんて……分からない。そんなの、知らないよ。
「わからない、けど……静之くんのために必死になりたいとは、思う」
「……へぇ」
ニヤリと笑った静之くん。音もなくスッと立って「じゃあ俺のために一肌脱げよ」と私の髪を掬いながら、隣に座った。