好きよりも、キスをして
自分の机の上にある、小さな本立てが目に入る。そして、その一番端に立ててある、青いノート。
それは一般的なノートよりも二回りほど小柄で、小さなものだ。
「これ……なんで買ったんだっけ……」
文房具は好きだ。時折、衝動的に買ったりもする。その時のものかな?覚えてないってことは、買わなくても良かったな。勿体ない事をした。
そう思っていた。だけど、ここで、ある考えが浮かぶ。
「そうだ。このノート……もしかして使えるかも」
今、私の頭にあるのは静之くんの顔。勝ち誇ったような顔で私をソファに押し倒した、あの暴君のような彼。
ノートを胸に抱き、ギュッと握り締める。そして、
「ちょっとくらい仕返し、してもいいよね?」と呟いた。
私の中で芽吹く反抗心。学校では常にすました顔をする静之くんの、慌てた顔が急に見たくなった。
久しぶりに、学校に行くのが楽しみと思えたかも。その証拠に、部屋を出る足取りは軽い。
「……ふふ」
めったに出ない笑顔も、この時ばかりは漏れたのだった。