好きよりも、キスをして


俺にとって澤田朱音という人物は、ただのクラスメイト。

俺と同じく、一番後ろの席の奴。

そして――


喋れるくせに喋らない、気に食わない奴。


声を出せない俺からしたら、そりゃもう、腹立つったらない。澤田に声は、豚に真珠と同じだ。アイツに声があるなんて、贅沢だ。もったいない。


その声を使わないなら、俺にくれ――


何度、そう言ってやろうかと思った。

まあ、喋れないから、言えるわけはないんだけど。



だから、夢で会うようになった時は本当に嫌気がした。


俺は夢の中でだけ、声が出せて自由に出来るってのに。なんでこんな奴と一緒にいねーといけないんだよって。


だけど、好機かも?と、そう思い始めた。


それは、澤田が俺の事を気にし始めた時だ。

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